ようやく、ここまで。新刊のお知らせです。

昨夜、新刊『「心の除染」という虚構』の念校を渡し、

これでいよいよ、私の手から離れました。

あとはもう、本となったものを手にするだけです。

 

故郷である伊達市を舞台に、原発事故から6年、

ここで子どもを守ってきた親たちのドキュメントです。

故郷がまさか、放射性物質で汚染されてしまうとは。

その「まさか」からのスタートでした。

何ができるかわからないまま、伊達市で子どもを育てている母たちに会おうと、

取材を開始したのは、2011年8月のことでした。

小学校からの幼馴染のつてをたどって、話を聞きに歩いたことが、

恥ずかしながら、私が故郷とちゃんと向き合った初めての経験となりました。

私はあの土地で「子ども」として育んでもらいましたが、

大学進学で離れて以来、「大人」として地域と関わったことはありませんでした。

もちろん、何度も帰省はしています。でもそれは、ただのお客さんです。

こんな私が、故郷を書けるのか、何度自問自答したことか。

それでも書かなければと思ったのは、

故郷という「感傷」が主旋律なのでは決してなく、

伊達市で行われていることを伝えずして、

今までよく、「ノンフィクションを書いてます」などと、

言えたものだ!という、目の前の現実がありました。

 

子宮頸がんワクチン被害を取材した時と、まったく同じ事態がありました。

「ねえ? 子どもの健康、子どもの未来って、

私たち社会が一番、大事にしているものではなかったの?」

これまで無防備に信じていた「前提」が、無残に崩れるさまを、

残酷なまでに突きつけられた取材が待っていました。

巨大製薬企業や原子力推進機関の利益のためには、

子どもの未来も健康も、簡単に吹き飛ぶことを、

それがこの社会の紛れもない事実であることをくっきりと知りました。

 

そうした中で、親たちは必死に子どもを守っていました。

子宮頸がんワクチン被害少女を支える母たちの涙、

わが子が「被爆しています」と宣告された母の、身をよじるほどの苦しみ、

それこそ、私たちが真正面から知るべきことだと思うのです。

ここにこそ、大事なものがある。そしてこんな涙を、

母たちに流させてはいけないのだと。

 

故郷という「感傷」など、あっけなく吹っ飛ぶほど、

わが故郷は、原子力推進機関の食いものにされていた事実も、

取材を通して、はっきりと見えたことでした。

次に原発事故が起きた時に使える、都合のいい「前例」が、

ここ伊達市で作られたというわけです。

市民に寄り添うべき自治体がむしろ、市民を実験台に差し出したという町で、

子どもを守るという曇りなき一点の思いさえ、押しつぶされるさまを、

まざまざと見ました。

 

「私たち、好きで浴びたんじゃない。

がんになるのは誰でも一緒って、ポテチでもタバコでもなりますよって、

バカにしてる。食べ物でがんになるのはその人のせい、だけど、

原発は私たちのせいじゃない。

そうやって誰も責任を取らないで、大丈夫、安心だと我慢させる。

それで子どもに何かあっても、最後は司法の場でって。

それで、どうやって前向きに生きていけるのか。あまりにもバカにしてる!」

 

母のたちの、心からの訴えを聞いて欲しい。

その時まで普通に生きていただけなのに、と。

 

故郷に生きる人たちと向き合って、

私に何ができるか、崩れ落ちそうな思いに駆られるばかりでした。

所詮、新幹線に乗って東京に帰れば、

晴れることがない重く立ち込めた雲から、

私は逃げることができるから。

 

自信なんか、何もなかった。書けたことは、奇跡のよう。

そんな思いから生まれた1冊です。

ぜひ、手にとってほしいと思います。

低線量被爆という誰もわからない状況下で、

子どもを守る親たちの思いを、

一人でも多くの方に受け止めてほしい。

その人たちを孤立させない、ささやかな一歩として。

2017年2月28日発売、集英社インターナショナル発行。Amazonで予約できるようになっていますが、ご近所の本屋さんでもぜひ、ご予約を!

 

 

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黒川祥子

黒川祥子

東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。
主に家族や子どもの問題を中心に、取 材・執筆活動を行う。
2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞受賞。
他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英 社)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)ほか。
息子2人をもつシングルマザー。

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  1. she より:

    ごめんね
    たいがい18で東京へ出たら
    故郷は捨てる

    私は戻り震災をリアルタイムで経験した
    だから
    捨てた故郷を語ってほしくない

    ごめんね
    必死で生きてるんだよ
    放射能と対峙して

  2. すず より:

    しっかりと読ませていただきました。
    まず現地に住む者として感謝申し上げます。
    ここまで丁寧に地元に寄り添い長期間に渡って取材されたものは初めてではないでしょうか。
    私達の気持ちを代弁してくださり、ありがとうございました。

    1. 黒川祥子 黒川祥子 より:

      読んでいただき、ありがとうございます。何よりの言葉をいただき、感謝申し上げます。これで終わりにするつもりもありません。ただ、ささやかですが、故郷への責務をひとつ果たせたかなと。離れていますが、繋がっていると思っています。

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